君を守る陰になりたい【Ansyalシリーズ 憲編】


紀天が強引に連れて行った厳さんがテーブルに運んでくれた
油淋鶏の定食を前に、私は割り箸を割って、食事を始めたっ。


何よっ、厳さんが言ってたのは普通じゃん。




私……ずっと、アイツが「結婚しよう」って言いだしてくれるの
待ってんだよ。


アイツが尊夜の陰になるって、決めたあの時から、
私はアイツの陰になるって決めた。


アイツと一生、添い遂げていきたいから。
アイツのことが好きだから。


けど……卒業しても、Ansyalとして軌道に乗りはじめても
アイツは一向に私に振り向いてはくれない。


私の好きは、アイツに届かない。



そう思ったら……涙腺が崩壊したように涙が止まらなくなって……
それを隠すように、鞄の中からハンカチを取り出して、涙を吸わせていく。



「厳さん、ナマ中一つ」



昼間っから、勢いで生ビールを注文する。

冷凍庫でキンキンに冷やしてくれたビールジョッキに、
生ビールをてんこ盛りに注いで、
厳さんとこの従業員がテーブルへと運んでくる。


そのビールジョッキの取っ手をグイっと掴んで、
一気に中身を飲み干して、息を吐き出した。


「あぁ、美味しい。
 厳さん、もう一杯追加ね」

そうやって今度は、運ばれてきた料理を食べ始める私の前に、
溜息をつきながら、紀天が着席する。


「おいおいっ、晃穂、昼間だぞ」

「いいじゃない。
 ほらっ、紀天も飲みなさいよ。

 昼からビールが飲めるなんて、凄く贅沢でしょうに。
 休みなんだよ。

 厳さん、紀天の分も追加」



勢いで勝手に注文すると、すぐにスタッフさんが
ナマ中2つをテーブルへと運んでくる。



結局、定食と厳さんのサービス料理を食べながら
紀天が一杯だけに対して、四杯もあけた私。



「あぁ、食べたぁ。
 厳さん、ごちそうさまでしたー」


そう言ってテーブルを立って、支払いを済ませようと財布を取り出す。


「日替わりの二つで2000円だな」


財布から2000円を取り出して支払おうとすると、
それよりも先に、紀天がポケット中から「厳さん御馳走さま」っと2000円を握らせる。


私が財布から出した2000円札は行く宛がなくて、宙を彷徨う。

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