君を守る陰になりたい【Ansyalシリーズ 憲編】
先に店内を後にした紀天。
暫く放心していた私も、慌ててアイツの後ろを追いかける。
手には2000円を握ったまま。
「紀天、はいっ。お昼代」
「いらねぇよ」
「けど……私も……」
「いらねぇっていったら、いらねぇ。
その2000円、とっとと財布に片付けろよ」
そんな言い方ないんじゃないっ!!
払うって言ってんだから。
「もうっ、自分のランチ代くらい自分で払うわよ。
受け取りなさいよ」
1000円札だけ財布に片付けて、
残り1000円札をつき出すように、アイツの正面に回り込んで突きつけた。
可愛くないのは知ってる。
だけど……私は昔から可愛くない。
これが私のデフォルトだから。
そうやってアイツの正面に突っ立った私の手をおろして、
次の瞬間、抱きしめられたアイツ腕。
そして……唇が重なった……。
何?
これっ……、卑怯者っ!!
心の中ではアイツに対する文句ばかりが出てくるけど、
それとは相反して、私の体は脱力していく。
逆らえない……。
アイツは、いつも私を捕えて離さない。
長い沈黙の後……、アイツはゆっくりと私に向かって笑いかける。
「ランチは俺の驕り。
けど、久しぶりに重さんのパンが恋しいよな。
次は晃穂が買ってよ。
俺が食べたいだけさ」
「うん、だったら許す。
明日の朝食は厳さんのパンだね。
ついでに、尊夜のパンも買ってく?」
「そうだな。
アイツ、お好み焼き挟んでたパン、食べてたんだよな」
「じゃあ、それに決定。
私って、優しいお姉さまだよね」
ノリで勢いよく零してしまった言葉に、
思わず唇を抑える。
「あぁ、そうだな。
尊夜は俺たちの弟だからな」
天然なのか、確信なのか……
私の気持ちを知ってか知らずか、
アイツはそう言って言葉を返しながら、重さんの店へと入っていく。