君を守る陰になりたい【Ansyalシリーズ 憲編】
「何してんの?」
「あぁ、作曲って言えるほど大層なものは出来ないけど
少しコード並べて、フレーズ考えてる。
この間、怜さんが昂燿に顔出したときに、
少し教えて貰ったんだ。
ギター軽くは触れるけど、もっと覚えたいなって。
歌だけじゃなくて、ギターも触れたら楽しいだろ」
そう言いながら、アイツは床に座ったまま
覚えて間がないコードを掻き鳴らして、何かを紙に書きこんでいった。
「俺、ホールに顔出してくる。
少しドラム触ってくるわ。思いっきり叩きてぇから」
「了解。
けど、ストレス溜まってるのはわかってるけどほどほどにな」
「ほどほど……ね。
とりあえず覚えとく。んじゃ」
尊夜と過ごす寮の自室を後にして、
ホールへと続く夜道を歩く。
ホール内のスタジオには、まだ何人かの関係者が
それぞれの楽器を手にして、練習しているみたいだった。
そんな中、通いなれた俺の行きつけの部屋を開けて
スタジオの電気をつける。
誰も居ないドラムのセットされたスタジオ。
その中で、俺が叩きたいように
Rapunzelのオリジナル曲のドラムを叩き続ける。
消灯時間のコールが届いて、
我に戻った時には、スタジオに入って一時間以上が過ぎていた。
「紀天、久しぶりに来てたんだね。
Rapunzelはどう?」
スタジオを出た直後に、久しぶりに再会したのは智早さん。
今はKreuz【クロイツ】と言うバンドを結成して、
俺たちとは別のバンドで、活動を続ける存在。
一緒に演奏している仲間の一人は、あの時怜さん主催の
セッションの時に、紹介されていた、梛と言う少年。
「Rapunzel、続けるべきか今は悩んでますよ。
正直。
必要されて、嬉しくて最初は加入を決めました。
でも……何時までやっても馴染まないんですよね。
俺が硬すぎるんですかね」
「紀天が何を考えて、馴染まないって思うか……
その根本に、しっかりと根付いた理由があれば想い通りに動けばいい。
だけど、それが何かがわからないのであれば、
何度、他のバンドに加入しても同じことになると思う。
辞めるのは何時だって辞めれるよ。
紀天、お前はRapunzelで何がしたかったんだ?」