君を守る陰になりたい【Ansyalシリーズ 憲編】
6.アイツの脱退 ~Rapunzel~ -晃穂-
その日、珍しい電話番号が表示された。
アイツのジュニアである瑠璃垣伊吹と出逢ったのは過去に一度。
たった一度、アイツとのデートの会場提供に姿を見せた際、
尊夜くんは、連絡先を教えてくれた。
電話番号は登録した物の、出逢った高校時代から大学生になった今も
一度もその番号が表示されたことなんてなかった。
*
尊夜くん
*
液晶に表示された名前を確認して緊張が走る。
「もしもし、絹谷です」
「突然のお電話すいません。
紀天から……デューティー紀天のジュニアを務める
瑠璃垣です」
「えぇ、覚えてるわ。
アイツが君にも迷惑かけてるよね。多分」
「いえっ。
実はお耳に入れておきたいことがあって、お電話させて頂きました。
たった今、僕はRapunzelを抜けました。
多分、今頃は紀天も脱退しているかもしれません。
明日から家の用事で日本を離れます。
留守の間、デューティーのことお願いします」
お願いしますって、バカ・紀天。
弟にこんなに心配されてどうすんのよ。
アンタは。
「伊吹さん……って言うよりも、尊夜君って呼ばせて貰ってもいいかしら?
私にとっての貴方は、出逢ったときから瑠璃垣伊吹君じゃなくて、廣瀬尊夜君だから」
「好きに呼ばれて構いませんが、場所と空気の判別はお願いします」
「そっ……そうだね。
でも……やっぱり、私にはアンタは尊夜くんだよ。
そっちは大丈夫?」
「……多分……。
今から気持ちを立て直して、明日からの家業に専念します。
そのまま夏休みに入りますので、紀天をお願いします」
「了解。紀天は任せて。
アンタも抱え込まないで、何時でも連絡しておいで」
「それでは、失礼します」
突然の電話は、暫くの会話を交わして通信を終えた。
そのまま部屋着から着替えを済ませて、
玄関の方へと歩いていく。