君を守る陰になりたい【Ansyalシリーズ 憲編】
「紀天、私……全部知ってるよ。
昨日、尊夜君から電話貰った。
アンタのこと凄く心配してたよ。
Rapunzel抜けたの?
尊夜君は抜けたって言ってた……」
呟くように紡きだした言葉に、
アイツはゆっくりと答えだす。
「Rapunzel、抜けたよ……。
アイツら、寄ってかかって尊夜を標的にしやがって
好かないんだよ」
そう言って絞り出すように吐き出したアイツ。
アンタは、ずっとずっと優しいから……
大切な弟をそうやって追い詰められて、
必死に爆発させないように耐えてきたんだよね。
だからこそ……大切なものの為に、
いろんなものを我慢して抱え込む。
そんなアイツが愛おしく感じて、
布団越しにアイツに両手を伸ばす。
アイツも私を求めるように、両手を背中に回して来て
私もアイツが思うままに体を委ねた。
アイツが求めてくるキス。
暫くキスを重ね合うと、アイツは私の方に顔をうずめてくる。
「ほらっ、紀天。
泣くなら泣いていいよ。
今なら誰も見てない。
弱音、いいなよ」
その後、アイツは……Rapunzel脱退までの間、
アイツが抱え続けた本音を教えてくれた。
最初は、音楽が出来れば誰でもいいと思ってた。
必要とされたことが嬉しかった。
尊夜と一緒に出来ることが嬉しかった。
だけどそこでRapunzelのバンド内で
派閥みたいなものがあるの気が付いた。
その派閥の中で、音楽性の方向の違いとか、
自分自身と尊夜の感性を否定されたような気がして
心だけが、バンドから離れ始めてたっと言うこと。
「ねぇ、私は……アンタが何処でバンドをやろうとも、
ただドラムを叩くだけだったとしても、紀天が好きでやってるんだったら
応援する。
けど……ずっと思ってた。
Rapunzelの時のアンタのドラムは、なんか紀天っぽくなくて嫌だった。
だから……私は、正直Rapunzelを脱退したって
尊夜君から聞いて、嬉しかった。
もっとアンタらしいドラムを叩いてよ。
私の前で、もっともっと輝き続けてよ。
その為だったら、私はなんだって協力してあげるから」
「晃穂……」
「ほらっ、とっとと起きる。
咲空良おばさん、心配してたよ。
咲空良おばさんだけじゃなくて、多分、心【しずか】おばさんも心配してるよ。
起きたらご飯食べて、出掛けよう。
むしゃくしゃしたら、思いっきり体動かさなきゃ。
けど今のアンタは、スポーツでも気分転換は難しい。
アンタのドラム、聞かせてよ」
アンタのドラム、聞かせてよ。
本当は、アンタは……今はドラムなんて叩きたくないかもしれないけど
それでも……私は、紀天に逃げて欲しくないから。
その日、私はアイツが気が済むまでスタジオでアイツがドラムを叩き続けるのを見届けて、
昂燿校へと帰るアイツを駅まで見送った。
終業式を終えて、夏休みに入ったアイツは
priere de l'ange(プリエールデランジュ)でアルバイトを始めながら、
時折、私を誘いだしては狂ったようにスタジオでドラムを叩き続けた。