君を守る陰になりたい【Ansyalシリーズ 憲編】

9.ファン VS 晃穂 -紀天-


Ansyalに加入して、一年目の夏。

俺は「降臨祭」と称されたツアーで、
Ansyalのメンバーと共に、全国をまわっていた。


全国20か所。


自宅近くの会場の時だけ、アイツが来てくれたら十分だと思ってたのに
アイツは、行く先々の会場に姿を見せて、
ステージに登場する俺をフロアーで出迎えてくれた。




「なぁ紀天、今日も晃穂ちゃん来てたよな。
 こっちに呼んでやれば?」

「サンキュー。ちょっと電話かけてくるわ」


携帯を手に取って、外へ出向く。


コールを何度か鳴らすものの、
アイツは電話に出る気配すらない。


そのまま黙って楽屋に戻る気にもならずに、
会場の外、アイツを探して駆け出す。



「あっ、憲よ。あっち」



ヤバい、見つかった……。



何時の間にか行列の様に追われる身となってる、
俺の前に突然姿を見せる晃穂。



「晃穂っ」



ファンに気が付かれない程度に小さな声で、
名前を呼ぶも、アイツは俺と視線をあわせようとしない。



「憲さんを追っかけて何やってるの?
 ここは会場の近く。

 至って不思議じゃないわ。

 だけど貴方たちが、憲さんを追いかけてる場所は、
 貴方たちだけの場所じゃないわ。

 メンバーに迷惑をかけるようなことしないで」



そうやって立塞がるようにアイツは仁王立ちになる。




「貴方、最近目に余りますわ。
 後で覚えてらっしゃい」



そう言って、反対側に歩いていった俺を追いかけていたファン。




「先ほどは失礼しました。

 憲さん、今日のLIVE楽しみにしています。
 頑張ってください」



アイツは他人行儀に、俺に深くお辞儀をしながら告げた。



それ以上、言葉を交わすことも出来なくて
俺は当たり障りない会話を返して、その場を後にした。




あんなやり方して……アイツ……何考えてんだよっ。




楽屋に戻って、壁に八つ当たりをするように腕を叩きつける。



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