君を守る陰になりたい【Ansyalシリーズ 憲編】
翌年の春休み。
入寮準備の為に先に手続きにいかないといけないオレは、
スポーツバッグに身の回りのものを詰め込んで養母に見送られて玄関を出た。
家の近所にある工場に顔を出して親父にも出掛ける旨を伝える。
そして隣の家の玄関のチャイムを鳴らした。
「はぁーい」
晃穂のおぱさんの声がインタ-ホンから聞える。
「こんにちは、紀天です。晃穂いますか?」
スピーカー越しに話しかけると、
すぐに玄関のドアが開く音が聞こえた。
出てきたのは、幼馴染の晃穂。
アイツも中等部までの寮生活を三月に終えて、
今は自宅から水泳部に練習に通っている。
「よっ、部活から帰ってきてたんだ」
「うん。
ほんの少し前に帰って汗流したばかり。
それより紀天どうしたの?
今から旅行?」
スポーツバッグを肩からかけていたからか、
オレの姿を見た途端に問いかける晃穂。
カジュアルなパンツルックの紀穂はショートヘアをかきあげながらオレを見据えた。
風呂上がりの髪はまだ完全に乾ききっていないのか、
タオルが肩から掛けられている。
「晃穂、オレさ高等部から昂燿【こうよう】校に内部転入することにした」
そうやって告げた途端に晃穂の顔色が曇っていく。
「けど……いきなり思い付きで決めたわけじゃないんだ。
去年の夏には決めてた。
でも……お前が楽しそうにしてたのも知ってるから、
今日まで言い出せなかった。
アイツが……尊夜に会えるかも知れないんだ」
オレの家の事情をよく知るアイツに、
尊夜の名前を出して、その決定事項が変わることがないことを突き付けた。
「ねぇ、何時行くの?」
暫くの沈黙の後、紡がれた言葉は少し頼りない。
そんな声が気になりながらも、
オレの気持ちは変わらない。
事実だけを告げよう。
「あぁ、入寮の準備があるから今日にでも行くよ。
入学式前に、もう一回帰ってくるだろうけどな。
入学式、親も来るだろうからさ」
「そっか。
まっ、昂燿でも頑張ってよ」