君を守る陰になりたい【Ansyalシリーズ 憲編】
18.一本の電話 -晃穂-
怜さんが天国に旅立った後、
私は何も手がつかないまま時間だけが過ぎていった。
私とアイツを繋いでくれた偉大な存在。
私に……アイツと踏み出す新しい世界を教えてくれた存在。
怜さんの旅立ちは、私が思ってる以上に私にとって
大きな出来事になってた。
アイツと一緒に立ち会ったはずの、告別式の時間の記憶も
今はもう曖昧で、ざっくりとその出来事を覚えているだけ。
ずっとずっと縋るように聴きつづけていたSHADEのアルバムも
今では聴くことすら出来なくなった。
派遣の仕事は今も自分のペースでアイツのマンションでしてる。
紀天は……今もAnsyalと瑠璃垣の仕事を頑張りながら、
そんな私の傍で支えてくれてた。
こんなにも……こんなにもたった一つのきっかけで、
自分が弱くなってしまうなんて思いもしなかった。
最初の一ヶ月は殆ど何も手が付けられないまま時間を過ごした。
一人、自分のマンションで過ごしていると、
お腹もすかなくて、ご飯なんてどうでもよくなってた。
そんな私を見かねて、アイツが自分のマンションに私を強制的に
連れてきたのが二週間後。
一ヶ月後にはアイツは私の荷物を全てこの部屋へと運び込んできた。
やられた当初は腹もたって苛立ったけど、
だけど……あの日から三ヶ月過ぎた今では、アイツに言葉には出さないけど感謝してる。
瑠璃垣所有の高層マンションの一角に与えられたアイツのマンション。
アイツに頼まれたらしい、智海や凌雅たちが毎日のように顔を出してくれたし、
アイツが住む瑠璃垣のマンションの隣には、宝珠さまの一族のマンションもあって
宝珠さまも時間を見つけては顔を出してお茶をして帰っていく。
皆の優しさが少しずつ、前へと私の時間を歩かせてくれた。
SHADEのラストLIVE。
怜さんが旅立った、九月十五日から季節は移り、年の瀬を迎える頃となってた。