君を守る陰になりたい【Ansyalシリーズ 憲編】


「もしもし」

「瑠璃垣です。
 今晩、都合つきますか?」

「えっ?
 今日、今日ですか……。

 今日はアイツと……紀天と晩御飯のすき焼きやる予定で
 えっと……尊夜君も来れそうなのかな?」

「あぁ、紀天と晩御飯の予定だったんですね。
 晃穂さんと直接、紀天のことでお話ししたいことがあって
 アイツには残業をお願いしました。

 都合つけて頂けますね」




電話では、Ansyalの十夜さんとしての尊夜君の口調ではなくて、
瑠璃垣財閥の後継者としての言葉遣いと、ノーとは断らせてくれない雰囲気。



「わっ、わかりました。
 私は、何処に行けばいいですか?」


「16時にうちのクリスタルホテルの最上階で。
 うちのものに、15時に迎えに行かせます。
 そちらのインターホンで身分証明を確認させますので、
 その後、車に同乗していらしてください。

 それでは16時に、お待ちしています」



そう言うと久しぶりの、尊夜君からの電話はプツリと途切れた。


暫く、通話の終わった電話を見つめるものの
そのまま液晶画面で時間を確認する。

15時に迎えに来るなら、もう14時15分。
急がなきゃ。


そのまま猛ダッシュで、すき焼きの材料を買い物して
マンションへと駆け戻り、シャワーを浴びて汗を流すと私なりの精一杯のお洒落。


っと言っても、かっちりとしたパンツスーツに着替える。


約束通り15時にチャイムがなって、かっちりと制服に身を包んだ運転手さんらしきの人が
瑠璃垣の身分証明を見せて迎えに来る。

そのままその人に連れられるように、真っ白なリムジンに乗り込むと
場違いな状況に身を縮めながら息を潜める。



50分くらい走って車は、高級ホテルのロータリーへと吸い込まれていった。



「絹谷さま、お待ちしておりました」


ホテルに到着して、リムジンのドアをドアマンが開くと
中から姿を見せた『GENERAL MANAGER』と名札に記された人が
お辞儀をして近づいてきた。



「伊吹さまより伺っております。
 どうぞ、こちらへ」


GENERAL MANAGERって……確か総支配人とかいう役職じゃなかった?


えっ?
なんでそんな、このホテルの偉い人が直々に私を出迎えに来るのよ。



「ご緊張なさっておいでですか?」


前を歩きながら私を誘導する、その人が話かけてくる。



「えっと……多少……」

「伊吹様がこのように、どなたかの存在に執着されるのは初めてのことです。
 あの方は多分、悪いようにはされませんよ。

 貴女にも、紀天様にも」




そう言うとGENERAL MANAGERさんは、
最上階の重たい扉を開いた。
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