君を守る陰になりたい【Ansyalシリーズ 憲編】


「まぁまぁ、かっちりと正装して来てくださって。
 どうしましょう、お父さん私たち普段着だわ」

そう言いながら奥に視線を向けると、叔父さんが暖簾を潜って
ゆっくりと玄関の方へと歩いてきた。


「睦樹さん、咲空良さん、紀天君、そして君が尊夜君だったかな。
 どうぞ、中にお入りください。

 晃子、お茶を頼むよ」

「えぇ、ただいま」


晃穂の両親の言葉の後、俺たちは家の中へとお邪魔する。
通されたリビング。

何度もガキの頃から遊びに来ていた家のはずなのに、
今日は緊張からか何時もと違ったふうにも感じる。


促されるままにリビングのソファーへと順に腰掛けると、
珈琲を運んできた小母さんも、小父さんの隣にゆっくりと腰をおろした。



「改めまして、本日はこのような場を頂戴いたしまして心よりお礼申し上げます。
 紀天、後はお前が話しなさい」


父さんにそう言ってふられた後、俺はゆっくりと深呼吸をして緊張を逃がしてから
小父さんと小母さんを振り返った。



「今日は晃穂さんのお父様とお母様にお願いがあって、家族でお邪魔させて頂きました。
 まだプロポーズは出来ておりませんが現在、俺は……えっと……私は……晃穂さんと
 私のマンションで同棲している状況です。

 幼い頃から一緒に居るのが当たり前で、アルバムを見ても晃穂さんや、小父さんと小母さんがいない写真はないほどに
 ずっと家族ぐるみであたたかく交流して頂いていました。

 俺が……不器用すぎて、晃穂も……晃穂さんも不器用すぎて……つかず離れずな俺たちでした。

 けど……俺の気持ちは、多分、昔から変ってないんです。
 ずっと気が付かなかっただけで、自覚できなかっただけで、アイツと出逢ったときから過ごした数だけ恋に落ちてて……」



話してるうちに何を話しているのか、頭の中が混乱して呻きたくなるそんな感情を抑えて
俺はもう一度深呼吸を挟む。


「えっと……俺は晃穂にプロポーズしたいと思ってます。
 家族ぐるみではなくて、本当の家族になってもいいですか?」


言葉にした時には手遅れで、何というか情けないほどに締めが甘い。


沈黙が続いて、その空気が今は凄く重く長く感じる。

その沈黙に堪えられなくなって、逃げるように珈琲に手を伸ばして
一口飲むものの、カチャリと音を立てる食器の音にピクリとする。

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