君を守る陰になりたい【Ansyalシリーズ 憲編】
「それではこのようにしたらどうでしょうか?
晃穂さんのお母さまの愛情がこもった白無垢は、前日に行う身内だけの
神前結婚式の場で。
後日、披露宴を盛大にして頂いて、その場にはお友達や仕事関係者の方も見えると思いますので
そこで兄さんのお母様が昔身に着けられたウェディングドレスを晃穂さんに来て頂ければどうでしょう?
その後も数回のお色直しをして頂く形はいかがでしょうか?
そちらの披露宴の件に関しては、知人の瑠璃垣にすでに話を通しておりますので
ご希望の大安の日に、クリスタルホテルの大会場・鳳凰の間を予約することが可能です。
幸いにも私の知人は瑠璃垣の社員でもありますし、話は通しやすかったので」
そう言うと……企んだ笑みを見せた尊夜は、
自身の素性だけは一切隠して、話を進め出した。
尊夜が用意したパンフレットには、当日の披露宴での食事の一覧写真、
ウェディングケーキの写真などが、ズラリと用意されていた。
「まぁ、でも瑠璃垣……クリスタルホテルと言えばお高いでしょう?」
そういって小母さんは小父さんの方に視線を向けた。
だよなー……庶民感覚じゃ、
クリスタルホテルの鳳凰の間なんて敷居が高すぎるんだよ。
瑠璃垣の御曹司が披露宴をする会場でもあるだろうが……。
心の中で毒づく。
「今の瑠璃垣の社長は、俺の神前悧羅学院時代の親友でもあるんですよ。
怜皇【れお】も先日、俺のところに連絡をくれてそのようにいってくれましたから
友人価格で破格の料金で使わせて貰えると思いますよ。
ここは二人の為に、お言葉に甘えませんか?
尊夜も友達に交渉してくれたみたいだしな」
「まぁ、そう言うことなら……ねぇあなた」
「あぁ、宜しくお願いします」
父さんの言葉の後、納得をしたのか小母さんと小父さんも了承してくれたみたいだった。
その後は、暫く昔話に花を咲かせて昼ご飯をご馳走になって
俺たちは隣の家を後をした。
そのまま家で着替えを済ませて尊夜と共に出掛ける。
出掛けた先は、クリスタルホテルの最上階。
アイツのビジネスルームの一角。
そこで仕事を手伝った後、「紀天、出掛ける」っとデスクに向かい続ける俺に声をかけた。
そのままアイツの後ろをついていくと、社長が鳳凰の間の前で俺たちを迎え入れる。
「紀天君、伊吹と睦樹から話は聞いているよ。
この部屋のことだが、来年の三月はどうだろうか?
挙式・披露宴の準備に支度もかかるだろうから。
この日なら、今から抑えることも出来る。
何、私からの餞別だよ。
いつも息子が世話になっているからね」
そう言って社長でもあるアイツのお父さんは、
手続きを済ませて「契約書」の控えを封筒に入れて俺に手渡した。
一気に進みだした一歩。
その五日後、俺はpriere de l'ange(プリエールデランジュ)に顔を出して
少し手伝った後、実家へとお母さんの指輪を取りに帰る。
そのまま怜さんが眠るお墓へと向かって、
俺自身の報告と力を貰うために手を合わせ、その足で隆雪が眠り続ける病室へと顔を出した。