君を守る陰になりたい【Ansyalシリーズ 憲編】

1.アイツの居場所 私の居場所 －晃穂－

夕方、社内に鳴り響くチャイムの音を聞いて
私はデスクワークをしていたファイルをパタリと閉じて、
ノーパソと共に鞄の中に片づける。


チラリと覗き見た腕時計は17時をさしていた。



「時間なのでお先に失礼します」



そう言って声をかけると椅子から立ち上がって、
部屋の扉の方へと向かった。



私、絹谷晃穂【きぬや　あきほ】社会人二年生。


大学を卒業して就職したのは自宅でも仕事が可能で、
時折、都合のいい時に出社をすればいい派遣会社。


派遣会社に就職を決めたと告げた時、
「このご時世、何時クビをきられるかわからない仕事なんて……」っと
渋い顔をして両親は、ちゃんと正社員で働くことを要求してきた。



だけど私はあえて、この仕事を選んだ。



正社員になって会社に自分自身を縛られてしまって自由に身動きがとれないより、
ちゃんと自分の思い通りに動ける身軽さが欲しかったから。


それが……そう、幼馴染のアイツ。


廣瀬紀天【ひろせ　あきたか】が音楽を始めた時、
私自身が決断した未来の一つ。


両親の声を聴かないふりして今の自由出勤のこの仕事を選んだ。


アイツが居る場所に身軽に出掛けながら手持ちのノーパソ一つで仕事が出来て、
給料も少ないけれど入る。


決して楽な生活が出来るわけじゃないけど……
それでも、この仕事が私に一番合ってる。



二週間ぶりに会社に出勤した私は、
一日の仕事を終えて夕方慌てて飛び出していく。


鞄の中には大切なチケットが一枚。



携帯電話の中にはメールで届いたアイツが所属するバンド「Ansyal」のＦＣ番号。
二週間、私が仕事に出社出来なかったのはＡｎｓｙａｌの地方ツアーが始まっていたから。


Ａｎｓｙａｌ。


ボーカルの十夜【とおや】。
ドラムの憲【のり】。
ギダーのTakaと祈【いのり】
ベースの託実【たくみ】。

この五人のメンバーが織りなすＶ系バンド。