君を守る陰になりたい【Ansyalシリーズ 憲編】
私の幼馴染のアイツが、このバンドの中で受け持つのはドラムと言う楽器。
Ansyalのドラマーの憲【のり】。
それが幼馴染のアイツ、紀天のもう一つの名前。
高校時代、突然目覚めたこの楽器との出逢いから、
アイツの未来は大きく動き出した。
そして……私の時間も。
アイツがこんな活動をやり始めるまで私とは殆ど無縁の存在だった
ヴィジュアル系バンドと言われる音楽ジャンル。
真っ黒なゴシックロリータと呼ばれる服に身を包んだ真っ黒なファンたちの集団が、
LIVEハウスの最寄り駅から長く列を伸ばしていく。
私の服装はと言えば、パステルのカジュアルパンツに多少の女らしさを醸し出すチュニック。
小さい時から、がっしりとした骨格を持ち標準よりも高い身長を持つ私には、
そんなロリータみたいなひらひらの息を吹きかけたら気絶しそうな服は似合うはずもなく、
コンプレックスを隠すように、流行のファッションからは逃げるようになった。
場違いなのは自分でもわかってる。
それでも彼らAnsyalが居る空間に存在するのは、
幼馴染で……私にとっての最愛のその人があの中にいるから。
アイツを見続けていたいから、
傍に感じていたいから私は……あの仕事を選んだ。
自由出勤の派遣会社ならば、Ansyalが移動する時は
その移動先の全てを一緒に追いかけていくことが出来る。
例え、その輪の中に入っていくことが出来なくても
アイツの居場所を守るため私に出来る唯一の役割がそこにあると思うから。
だから私は今日もファンの子たちと同じ列に加わりながらアイツを見つめ続ける。
小さい時からずっと見つめ続けていた幼馴染のアイツ。
紀天のステージを見守るために。
会場前、開演前のファンの列がLIVEハウス前を中心にズラーっと列を作っていく。