君を守る陰になりたい【Ansyalシリーズ 憲編】
更衣室で水着に着替えて、
プールサイドで、ウォーミングアップ。
そしてプールの中に入ると、フォームをゆっくりと確認しながら、
順番にBu→Ba→Br→Freeとメドレ-で泳いでいく。
Buはバタフライ。
Baは背泳ぎ。
Brは平泳ぎ。
Freeは自由型だけど、
クロールを持ってくる。
プールの端から端までを何往復かした後は朝練終了時間まで、
Pullと呼ばれる腕だけを使った練習を繰り返す。
「朝練、終了」
プールの中にホイッスルの音が響いて、
部長が朝練終了を告げる。
一斉にプールから上がって、シャワールームへ。
そこでシャワーを浴びて制服に着替えると、
髪をドライヤーで乾かして、教室へと走り出した。
「ごきげんよう、晃穂」
「あっ、おはよう智海」
「それで、あの後。
バカから電話あったの?」
机に近づいてきた智海は私の傍に来て、
詮索するように紀天のことを聴いてくる。
バカって……確かにバカ以外の何物でもないけど、
バカなのはアイツじゃなくて多分……私。
アイツと私は幼馴染。
何時だって一緒に居たから、
一緒に居るのが当たり前になってた。
何時だって心が弱った私の傍には
天の川を超えて駆けつけてくれたアイツが居た……。
だけど……アイツと私は恋人同士じゃない。
一度だって告白何てしてない。
だからアイツが連絡をくれなくても、
彼女じゃない私には、
アイツを責める資格とかそんなものないのに。
なんで心だけはこんなに苦しいんだろう。
アイツが居なくなった学校。
それだけで心が空っぽになってく私。
体が鉛みたいに重く感じて思うように動かない。
「……まだ……だよ……」
ようやく紡げたのは、その言葉だけ。
そして必死に言葉を紡ぐ私の目からは何故か涙が一筋零れ落ちてた。
慌てて、涙をぬぐう右手。
バカ、泣く必要なんてないのにどうして涙が出るのよ。