君を守る陰になりたい【Ansyalシリーズ 憲編】
尊夜?
紀天のことは何でも知ってるって思ってたのに、
忘れてた。
ううーん、私にはどうでもよかったんだ。
尊夜?
確か、あの日も尊夜って言ってた。
アイツが私にその名前を出したって言うことは、
私も知ってる名前のはずなんだ。
えっ?
尊夜って誰?
「ねぇ、睦樹おじさん……尊夜って誰?」
言葉を選ぶことも出来ずに
ストレートすぎる言葉を吐き出していた私。
「尊夜は紀天の弟の名前。
だから紀天流に言えば晃穂ちゃんにとっても弟かな?」
そう言って笑いながら言うおじさんの言葉には、
多分……小さい時の砂場発言があるからかな?
「睦樹おじさん……それって……」
「そうそう。
晃穂ちゃんも覚えてたんだ。
幼い紀天の最初の告白。
晃穂ちゃんは尊夜のお姉ちゃんにして貰ったんだろ」
そう言いながらおじさんは懐かしそうに笑ってた。
「えっ?
紀天、晃穂ちゃんにそんな告白してたの?
だったら私も嫌われないようにお義母さんしなくちゃ。
未来のお嫁さんに」
なんてお玉を右手に、左手には小皿を持って
笑いながら近づいてくる咲空良おばさん。
「はいっ、味見」
手渡されるままに、小皿に入ったスープを口にする。
「とっても美味しいです」
「まぁ、良かった。
これで晃穂ちゃんの胃袋も掴めたかしら?
お義母さんの料理の味がマズイから
紀天とは付き合えませんなんて言われたら悲しいもの」
なんて世間からずれてる感覚のことを呟きながら
おばさんは私に笑いかけた。
「尊夜はね、生まれてすぐに
病院から居なくなってしまったの。
だから今おばさんもどうしているのかわからないの」
そう告げた、おばさんの声は何処か寂しそうで
私はその後どうやって言葉を返していいのかわからなくなった。
その夜、テーブルいっぱいに並べられた晩御飯はとっても豪華で、
うちの食卓とは違ってお洒落で花があるものばかりだった。
ウチなんて……パスタを食べる時もお箸が出てくるレベル。
だけど紀天の家では、普段の生活からフォークとナイフが並べられてる。
心【しずか】さんの写真の前にも、
同じ食事メニューが小皿に取り分けられて添えられる。