君を守る陰になりたい【Ansyalシリーズ 憲編】
そうやって始まった晩御飯。
この家に招かれて久しぶりに笑えた気がした。
紀天が居ない寂しさが一番わかる場所で、
お互いに紀天を感じあえることが出来るから。
「それで、晃穂ちゃん。
最近、紀天から連絡あるの?
晃穂ちゃんの顔が会うたび、会うたび曇ってるから心配してたのよ。
あの子、連絡してないでしょ。
もう、こんなに可愛らしい彼女をほったらかして
何してるのかしら?
多分、心【しずか】も天国で紀天に怒ってるわよ」
そんなことを言いながら、おもむろに取り出した携帯電話。
おばさんは携帯を触りながら、発信ボタンを押す。
コール音はしても相手が電話に出る気配がない。
「ったく。紀天ったら」
ご機嫌斜めの咲空良おばさん。
「咲空良、後片付けは僕がするから
咲空良は晃穂ちゃんのフェイスケアでもしてあげたら。
ストレスは肌に悪いんだよね」
「あっ、そう……。
そうだったわ、晃穂ちゃんこっちに来て」
促されるままに連れて行かれたベッドに体を横にして
顔のマッサージ。
咲空良おばさんの指先が優しく顔の上を動いて
刺激していく。
そんなマッサージが心地よくて、ピリピリしていた緊張感や、
鉛みたいに重かった体がゆっくりと解されていく。
顔から始まったマッサージは、やがて香りの良いオイルと共に
全身へと指先が進んで体を緊張から解放してくれる。
「ごめんね……あんな子で。
でも紀天……お母さんの心【しずか】に似て本当に優しい子なのよ。
だから……紀天の傍に居てあげてね」
咲空良さんは、そんな風に施術をしながら小さく告げた。
ふいに咲空良さんの携帯が鳴り響く。
「あっ、この着信音。
紀天だから電話出ていいわよ。
話し終わったら最後に電話を持って来て頂戴」
天使か悪魔か……咲空良おばさんはそう言うと
『手を洗ってくるわね』っと部屋を出て行った。
手にはおばさんの電話を握らせて。
震える電話で慣れない電話の通話ボタンを押す。
「もしもし、咲空良さん?
電話……」
そこまで言いかけた紀天の声はピタリと止まる。
「って、電話出てるの晃穂か?」
久しぶりに紡がれる名前、久しぶりに聞いたアイツの声。
「そうだけど?」
精一杯の強がりで、また可愛くない私の返事。
アイツの声に、ウザいくらいに泣きながら
縋りつくことが出来たら、可愛げがあるのかも知れない。
だけど……そんな弱みは素直に見せられる私じゃなくて。