君を守る陰になりたい【Ansyalシリーズ 憲編】

「今週末、一度帰るよ。

　俺、今のデューティーがさ三杉竣祐さんなんだ。

　光輝悧羅高等部総代に続いて、
　昂燿の高等部総代の下に居るんだ。

　竣祐さんが家の用事で帰るから、
　途中まで便乗して帰ろうかと」

「紀天の今のデューティーは知ってた。
　だって私のデューティが誰か知ってるでしょ？
　
　紀天の行動なんて宝珠さまから筒抜けなんだから」



筒抜け何て大げさ。
私が知ってることなんて殆どないのに。




「なら、多少連絡出来なくても平気か？
　
　週末、帰るの取りやめてもいんだけどな。
　そろそろ、お前が泣いてそうな気がしたんだけど」


グサっ。

私をからかうように告げられた言葉。



「バカっ！！何言ってんのよ、アンタ男でしょ。
　男だったら一度自分が口にした発言に責任持ちなさいよ。

　今週末、帰ってくるんだよね。
　わかった。
　
　私も週末は開けとくから」


「サンキュー。

　悪いけど親父と咲空良さんに順番にかわってよ」

「うん。ちょっと待って」



そう言いながら少しでも長くアイツの声を聞いていたくて
おじさんと、おばさんを探す私の足はゆっくりとなっていく。



タイムリミット。



「紀天から代わって欲しいって」



そう言って差し出した咲空良おばさんの携帯を
睦樹おじさんに手渡す。


おじさんは、やんわりと笑って
そのまま電話を続けた。



「少しは満たされた？

　ごめんなさいね、不器用な子で。

　心【しずか】に似たら、世渡りが上手い子になったんだと思うけど
　育てるのに関わったのが私だからかな」


咲空良おばさんは、
そうやって私の近くで微笑んだ。


「そんなことないです。

　アイツ……私の心に凄く敏感でいつも欲しい時に
　欲しいものをくれるから」


「そう。
　晃穂ちゃんにとってもそうなのね。

　私にとっても今の家族は安定剤なのよ。

　私が一番大変だった時間にとても優しい時間をくれたの。　
　今だって……尊夜のことを思うと夜も眠れなくなる時もある。

　だけど私を支えてくれる大切な家族がいるから」


そうやって今は居ない大切な我が子の名を愛しそうに紡ぐ咲空良おばさん。


思い出すのは幼い頃の記憶。



ベッドに眠る紀天のお母さんの隣には、
いつも咲空良おばさんが居て、
そんな咲空良おばさんをアイツは小さな体で
必死に守ろうと、騎士【ナイト】みたいに映ってたっけ。


アイツが好きなのは、咲空良おばさんじゃないのかなって
小さな私が勘ぐるぐらいには。


だからおませな私は咲空良おばさんに対抗心バシバシで
わざと『おばさん』って言葉を強調してた。




「見つかったらいいですね。
　尊夜くん……。

　私もお姉ちゃんにしてくれるんですよね」


「そうそう。
　
　紀天だけじゃ心配だから、
　晃穂ちゃんがお姉ちゃんになってくれたら
　私も嬉しいわね」




そうやって言ってくれるだけで
私はまた歩き出せる。




空回りの心は、乾きすぎた心の泉。



ひび割れた井戸には注ぎ込まれた水も、
一瞬で涸れてしまうかもしれないけど
それでも……今は、僅かな水を支えに今出来る自分の時間を精一杯、
走っていこう。



再び、交わるその時まで。



そう言う風に思えた時間だった。




その夜、帰宅した私は久しぶりに熟睡出来た。


そんな気がした。