君を守る陰になりたい【Ansyalシリーズ 憲編】
13.夏休みの約束~高校時代~ -晃穂 -
久しぶりの再会の日は、やっぱり過ぎていく時間も早くて
私の知らないアイツの世界を肌で感じられた次の日、
アイツは昂燿校へと帰っていった。
少し前まで隣に居たアイツ。
紀天の存在を感じられなくなるだけど、
ちょっぴり寂しさが強くなる。
二人で悧羅に通っていた頃には感じることのなかった感情が、
いまの私にはダイレクトに圧し掛かってくる。
たかが一ヶ月だよ。
一ヶ月なんて、すぐだよ。
三ヶ月も放置されてたんだから。
なんて自分を慰めてみる。
私の方も、毎日のように繰り返される日常に忙しく
お互い、自分のやるべきことに追われる日々。
「練習、終了。
絹谷は後少しだな。
次はもう少しタイム縮められたらいいね。
感覚は取り戻してきてる。
手応えはそこまで来てるよ」
なんてお褒めの言葉もいただけて、
我ながら単純なんだなーと思い知りつつ過ごす時間。
部活を終えて、行き帰りは殆ど宝珠さまの家の車で送迎。
授業と授業の合間休憩や、昼休み、自宅に居る時間は、
あの日、アイツと一緒に買ったお揃いのCDをプレイヤーにデーターで詰め込んで
持ち歩くSHADEの曲たち。
暇があれば聞いてるサウンド。
最初は全く知らなかった曲なのに、一ヶ月も近づこうとする頃には、
カラオケに言ったら歌えそうな程度に覚えてしまった。
フレーズを聞いただけで、
体が勝手にあの日の感覚で動きだしてしまう。
「晃穂、また聴いてる」
そう言って私の耳から、イヤホンを抜き取って
智海は自分の耳へ差し込む。
「恋だよねー。
うん、恋だよー。
アンタの好みってこんなんだっけ?」
なんて冷やかされる始末。
少しでも紀天が好きな世界に触れていられたら、
離れていても紀天を感じられる気がするから。
少しでもアイツが好きなものに触れていたい。
アイツを感じていたいって、
感じられるものはどんなもので身近に置きたい。
そう思ってしまうのは、紛れもなく誰にも言えない私の本音。