一歩【完】
「…それだけ?」
私は少し、
苛立ちを隠せなかった。
「…す、すまない…
君が望む責任を…!」
「いらない」
どうして、こんな時でも、
あなたは
律儀で素直で嘘が吐けないの…?
「何もいらない!
お金も離婚もどうでもいい!
忘れて!
私はこれから幸せになるの!
あなたがくれなかった幸せを
手に入れるの!
服もバッグもアクセサリーも
今日を最後に全部処分するわ!
だからもう…!
………消えてよ」
どうして、こんな時でも、
私は
狡くてバカで嘘吐きなの――…?
「…すまない、もう帰るよ」
震える声で、背を向けるあなた。
遠くなる。涙で滲む。
もう、私の涙声なんて
届かないような距離。
「…ぁ……行かないで―――…
……なんて、はは…」
私は俯き、地面に涙を落とした。