さよならの魔法



自分の気持ちが邪魔をする。

行き場をなくしたこの想いが、私の中で漂っている。



逃げられたらいいのに。

こんな現実から目を背けて、逃げ出してしまえたらいいのに。


そうは思っても、私はまだ中学生。



何の力もない、ただの子供だ。

お金を稼ぐことすら出来ずに、養ってもらっている身分。


学校に行きたくないと反抗しても、それを許してもらえない。

無理に追い出されて、結局は学校へと送り出されてしまうだけ。


無力な自分を呪って、今日も学校へと向かう。



少し時間が空いたからといって、何かが変わることはない。


変わらない。

変わってくれない。


夏休み前と同じ状態を、私は再び味わっていた。




キーンコーン、カーンコーン。


授業の終わりを告げる鐘の音が、高らかに響き渡る。


そう広くはない校舎の中を、駆け巡る鐘の音。

何ともレトロなこの音は、昔からこの学校で使われていたものだ。

両親が通っていた時代から続くというその音に、静かに聞き入る。



「わー、やっと終わったー!」

「暑いから、授業怠いよねー。やってらんないわ!」

「クーラーくらい付けろっての!」

「ほんと、ほんと。次って、移動だっけ?」

「化学だから、移動じゃない?めんどくさーい………。」



みんなが口々に、思い思いの言葉を重ねていく。


私はそんなみんなの会話に混ざることなく、黙々と机の上に広げていた教科書やノートを片付ける。


何も聞こえない。

何も考えない。


念じる様に、何度となく心の中で呟いた。



聞いてはダメだ。

考えてはダメ。


分かってるのに、どうしても耳に入ってしまう声。

何度も自分に言い聞かせているのに、私の脳と体は言うことを聞いてくれない。



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