さよならの魔法
ざわつく教室の中でも、その光景は異様なものだった。
「べ、別に………何も………。」
微かに聞こえる、天宮の声。
普段から、天宮の声は大きいという訳ではない。
滅多に誰かと話したりはしないけれど、どちらかと言えば小さい方だろう。
しかし、今は更に小さく、しかも震えている。
聞き耳を立てているつもりはないのに、それでも自然と耳に入ってきてしまう会話。
先ほどまで聞こえていたはずの茜の声が、遠くなっていく。
茜とのやり取りをそっちのけにして、俺の意識は天宮達の方へと向いていく。
(またかよ………。)
そう思うのも、無理はないだろう。
何も、これが初めてじゃない。
磯崎が、天宮に構うのはしょっちゅう。
日常茶飯事といえば、日常茶飯事なのだ。
からかって。
わざと、天宮を困らせることを言って。
時には、喧嘩まで吹きかける。
アイツにとっては、天宮は道具と同じだ。
面白おかしく時間を過ごす為の道具として、天宮のことを見てる。
利用してるんだよ。
天宮は、物じゃないのに。
人形でもないのに。
そういうものを見るのと同じ目で、磯崎は天宮のことを見てる。
正直言って、理解出来ない。
理解しようとも思わない。
人を貶めて、何が楽しいのだろう。
人を傷付けて、何が面白いのだろう。
俺には、理解出来ない思考回路だと思う。
でも、それを止める勇気もない俺。
心の中ではいろいろ思っていても、ただそれだけの俺。
見ているだけの傍観者だ。
心の中ではいろいろ思っていたとしても、それでは何の意味もない。
歯痒くて。
歯痒くて。
見ているだけしか出来ないなんて。
動きたいのに、動けないなんて。
天宮と、仲がいい訳じゃない。
助けなければいけない義理もない。
だけど、助けてあげたかった。
助けてあげられない自分に、イライラするんだ。