さよならの魔法
天宮を見ている度に、思うことがある。
俺って、こんなヤツだったのだろうか。
こんなに、意気地がない男だったのだろうかと。
昔はちゃんと、言いたいことも言えていたじゃないか。
言いたいこと。
言うべきこと。
自分の考えを、きちんと言葉に出して言えていたはずなのに。
(大人になるって、こういうこと?)
言いたいことも、言えなくなって。
何でもかんでも、我慢する様になって。
人の目ばかりを気にする様になって。
それが、大人になるということなのだろうか。
だったら、俺は大人になんかなりたくない。
言いたいことも、言えなくなるなら。
人の目ばかりを気にして、動けなくなるなら。
そんな大人になら、俺はなりたくない。
俺が葛藤を繰り返している間にも、状況は刻々と悪化していく。
良くなるはずなんてないんだ。
磯崎に、その気がないのだから。
天宮を前にして、好き勝手に会話をしていく女子。
それはまるっきり、天宮の気持ちを無視したものだった。
「何かね、天宮さんが元気ないみたいだから、すごく気になっちゃってー。」
白々しい磯崎の言葉が、少し離れた俺の席にまで響く。
そんなこと、全然思っていないクセに。
天宮のことなんか、これっぽっちも考えていないクセして。
よくも、そんなことが言えたものだ。
表面だけは親切ぶって、偽善者のフリをして。
中身は、真っ黒。
天宮をいたぶることしか、磯崎は考えていない。
嘘の言葉。
気持ちなんて、全く入っていない言葉。
鈍感な俺にだって分かる。
その言葉が、嘘であること。
磯崎に、そんな気がないことくらいは。
「だ、大丈夫………だから………。」
天宮の切羽詰まった声。
焦った様子で、磯崎の言葉に反応する天宮。