さよならの魔法




あの子と同じクラスにならなかったのは幸いだけど、それだけじゃない。


知らないばかりの教室に飛び込んでいかなければならない。

クラス分けだけが、今日の私の解決すべき問題ではないのだ。



(ど、どうしよう………!)


入らなければならないことは、もちろん分かっている。

しかし、頭では分かっていても、体が言うことを聞いてくれない。



竦む足。

強張る体。


どんどん萎縮していく私。

小さくなっていくだけの私の耳に、その時、明るい声が届いた。





「ははっ!」


よく通る声。


そう、色に例えるならばブルー。

薄く透明なブルー。



透き通る声が、教室のドアのすぐ近くから聞こえてくる。


一瞬だけ離れていた顔を、教室のドアにくっつけてみる。

ドアに取り付けられた小さなガラス窓から見えたのは、爽やかな笑顔だった。



「紺野のバーカ!」

「だってさ………。」


クラスメイトらしき2人の男子生徒が、ドアのすぐ向こう側で話をしている。


たったそれだけのこと。

それなのに、どうしてこんなにも気になるのだろう。



引き寄せられる。

吸い込まれる。


その声に。

その笑顔に。


ドキンと、真っ白なスカーフの奥の胸が弾んだ。




「ちょっと待って、紺野。俺、トイレ行ってくる!」


男子生徒のうちの1人が、そう言って立ち上がる。


紺野と呼ばれた男子生徒は、笑顔のまま。

ブルーに染まる声で、からかう様に軽く返す。



「おー、行ってこいよ。漏らすなよー?」

「………っ、お前じゃないから漏らさねーよ!」

「うるせー!俺が、いつ漏らしたんだよ!?」

「あー、ほんとやばい!!いいから、紺野はそこで待っとけって。」



どうしよう。

どうしよう。


出てくる。

あの男の子が、こっちに来る。



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