さよならの魔法
磯崎のことなんて、最初から目に入っていなかったかの様に振る舞う。
分厚いレンズの眼鏡の彼女が、天宮に手を差し伸べる。
重ねられた手。
連れ出される、天宮。
俺がやりたくてもやれなかったことを、あっさりと別の人間がやってのける。
俺は最後まで、見ているだけ。
みんなの輪の中で、遠くから見ているだけ。
同情していても、それは心だけのこと。
それに、行動は伴わない。
ああ、世界で1番、自分が情けない。
何も出来ない自分が。
見ているだけの自分が。
クラスの中で目立っていたって、仕方ない。
そんなことに意味はないのだ。
大事な時に、動けなければ。
ここぞという時に、自分の思った通りに動けなければ。
橋野の方が、よっぽどいいじゃないか。
俺って、何なんだろう。
何、やってんだろう。
残された磯崎達は、立ち去った2人の悪口ばかりを口にしていた。
「うわー、何よ………あれ。」
「1人だけいい子ぶっちゃって、バカじゃないの?」
「ほんと、ほんと。善人ぶっちゃって、気に入らなーい。」
「ねえ、もう行こう!なーんか、飽きちゃった。」
「そうだね、行こっかー。」
醜い悪口ばかりが飛び交う教室。
そんな中で、俺はその悪口さえ止められない。
俺じゃ、誰も救えない。
なんて、無力なんだ。
何だろう。
この気持ちの正体は。
グルグル。
モヤモヤ。
自分の意思を貫けないことが、もどかしい。
思った通りに動けないことが、悔しい。
俺は、何を恐れているのだろう。
俺は、何が怖いのだろう。
バカにされるのが嫌なのか?
からかわれることが嫌なのか?
動けよ。
動けよ。
言ってやれよ。