さよならの魔法
そんなバカみたいなこと、止めろよって。
他人を傷付けて、何が楽しいんだよって。
どうして言えないんだ。
どうして。
気が付けば、教室に残っていたのは2人だけで。
あんなにたくさんいたクラスメイトは、もう俺と茜以外、誰もいない。
押し黙る俺。
その横で、俺を待つ茜。
茜は俺を揺さぶりながら、こう言って急かした。
「ねえ、ユウキ。早く行こうよ。」
分かってる。
分かってるんだけど、体が動かないんだ。
心が、置き去りにされたままなんだ。
「どうしちゃったの?ユウキ………。」
あんなことがあったのに、茜はいつもと変わらない。
あんなこと。
そりゃ、俺と茜には直接関係があることではないけれど。
無関係だって、思うかもしれないけど。
それでも、俺と茜は、ここにいた。
あんないじめがあった中、同じ教室の中にいたのだ。
俺達がいるのと同じ空間で、惨めで醜いだけの行為が行われていた。
いじめは繰り返されていた。
それなのに、あのいじめを見る前と、茜の態度は変わらない。
変わらない様に見える。
それが、俺には不思議でしょうがなかった。
何も思わないの?
あれを見て、何も考えないの?
以前にも、聞こうとしたことがある。
あれは、茜が俺に告白をしてきた日。
俺にとっても、茜にとっても、忘れられない日。
あの日も、天宮はいじめられていた。
今日みたいに、磯崎の餌食になっていた。
「なあ、増渕。お前は………」
まだ茜のことを増渕と呼んでいた頃、俺は茜に聞こうとしていた。
聞いてみたいと思っていた。
このいじめのこと。
同じクラスの女子がしている、残酷な暇潰しのこと。
茜は、このいじめには関わっていない。
磯崎と仲良くしているところも、見た記憶はない。
だからこそ、茜がどう考えているのか、分からないんだ。