さよならの魔法



ずっと知りたかった。


茜の考えを。

茜の価値観を。


あの時と同じように様に、俺はこう尋ねた。





「なあ、茜。お前は………」

「ユウキ、なーに?」


つぶらな瞳を輝かせ、茜が聞き返す。


俺の声は沈んだまま。

茜の声とは、対照的なものだった。



「茜は、どう思ってる?磯崎達がやってんの、茜も見てただろ………。」


一瞬の沈黙。

その沈黙が重い。


茜の表情が固くなって、凍り付く。


茜じゃないみたいだ。

まるで、別人だ。



「え?どうって………何のこと?」


見ていたクセに、そんなことを言う茜。


不自然に彷煌う視線。

初めて見る、茜の別の一面。



「きゅ、急にどうしちゃったの?ユウキ………、ねえ、そんなことよりも早く行かないと遅刻扱いになっちゃうよ。」


急にじゃないよ。

本当は、ずっと前から聞きたかったんだ。


茜の根っこにある、考え方を。

本当の茜を知りたかった。


茜は言葉を濁して、話題をすり替えようとしている。

そんな茜に、俺は畳みかける様に質問をぶつける。



「前から聞きたかったんだよ。」

「………。」

「茜のことをもっと知りたいから。茜が考えていることも、知っておきたいから。」


茜にとっては、そんなこと。

しかし、俺にとっては重要なこと。


彼女の考え方を知りたいと思うのは、おかしなことだろうか。



付き合っているのなら、尚更。


彼女のことを知りたい。

彼女の考えを知りたい。


そう思うのは、当然のことだと俺は思ってる。



言葉を選んで、慎重に聞く。



「磯崎のこと、どう思ってる?………ああいうのを見て、どう思う?」


答えにくい質問ばかりをぶつける俺に、茜は苦い表情を浮かべる。


スッと視線を落として、俯いた茜。

少し考える素振りを見せてから、茜はこう答えた。



「私は天宮さんのこと、いじめてないよ………。いじめには関わってない。」


そんなこと、知ってるよ。

茜が言わなくても、知ってる。


いつも茜の隣で、俺は茜のことを見てきたのだから。

この2ヶ月間、ずっと。



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