さよならの魔法
途中で行き詰まっていたのが、嘘みたいだ。
焦げ茶色のチョコレート。
シンプルなだけの普通のチョコレート。
たった5個の小さなチョコレートの粒に、この2年間近くの気持ちを込めて。
大好きな人へ。
初めて好きになった、あの人へ。
チョコレートを冷やしている最中に聞かれたのは、こんなこと。
「ねえ、天宮さん。」
「ん?」
「このチョコレート、誰にあげるの?」
その瞬間に思い浮かんだのは、紺野くんの笑顔だった。
紺野くんのことが好きだ。
入学式の日。
桜が吹雪の様に舞っていたあの日、私は恋に落ちた。
初めてだったよ。
こんなに、誰かのことばかりを考えたのは。
こんなに、誰かのことを想ったのは。
紺野くんが初めてだった。
憂鬱なことばかりだった世界を変えてくれたのは、紺野くん。
大嫌いだったはずの学校を好きにさせてくれたのも、紺野くん。
紺野くんに会える学校が、好きになった。
いじめられても。
紺野くんと話すことが出来なくても。
会えるだけで良かったんだよ。
紺野くんの顔が見れるということだけで、学校に行く理由になり得た。
毎日会えるならばと、真面目に通った。
だけど、紺野くんには彼女がいる。
紺野くんのことを好きなのは、私だけではなかった。
優しくて、明るくて、人気者の紺野くん。
誰からも好かれる紺野くんに好意を抱いているのは、私1人だけじゃなかったということ。
可愛い可愛い、増渕さん。
人懐っこくて、誰とでも話せる増渕さん。
お似合いじゃないか。
人気者の紺野くんの隣にいるのに、相応しい人じゃないか。
お似合いの彼女が、紺野くんの隣で笑ってるんだもん。
叶わないよ。
勝てないよ。
どんなに強く想っていても、紺野くんが見ているのは私じゃない。
私なんかじゃない。
一方的に好きでいるだけじゃ、ダメなんだ。