さよならの魔法



私よりも可愛いあの子。

私よりも素敵なあの子。


勝ち目なんかない。



だから、私は隠す。


この恋を。

この恋心を。


心の奥にしまって、誰にも見つからない様に隠すの。



いつか、消えてなくなるその日まで。

紺野くんの顔を見ても、何も感じなくなるその日まで。


これが最後だ。

明日が、最初で最後。


紺野くんへの気持ちを表へ出すのも、最初で最後だ。



忘れる為。

諦める為。


終わりにする為に、私はチョコレートを渡す。

5個のチョコレートの粒に気持ちを込めて、大好きな人に渡すのだ。



付き合いたいからじゃない。

増渕さんから、紺野くんを奪いたいからじゃない。


紺野くんの幸せを願えるまでの心境には至っていないけれど、紺野くんの幸せを壊したいとは思っていないんだよ。



終わらせいんだ。


行き場のない、この片想いを。

一方通行でしかない、この気持ちを。



「そ、れは………。」


紺野くんだよ。

同じクラスの紺野くんだよ。


そう言えたなら、どんなにいいだろう。



言えない。


彼女がいる紺野くんに、チョコレートをあげたいだなんて。

彼女がいる紺野くんの為に、チョコレートを作っているだなんて。



軽蔑されるかもしれない。

止められるかもしれない。


それくらい、非常識なことなのだ。

彼女の増渕さんからしてみれば。


私の口を割って出たのは、今にも泣き出しそうな声。

弱々しくて、消えてしまいそうな小さな声。



「ご、ごめんね。余計なこと………聞いちゃって。」

「………。」


慌てて謝る橋野さんに、私はゆっくりと首を横に振ることしか出来なかった。




橋野さんは悪くない。

悪いのは、私だ。


彼女がいる人を好きなままでいる、私なのだ。



好きになった頃は、紺野くんには大切な人はいなかったけれど。

初めて会った頃は、紺野くんの隣には誰もいなかったけれど。


彼女がいる今も、私は諦められずにいる。

好きなままでいる。



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