さよならの魔法
茜の考え方も。
茜の思いも。
妥協出来るかもしれないと、そう思ったこともある。
しかし、それは間違いだった。
どれだけ茜と同じ時間を過ごしても、価値観の違いは埋まらない。
考え方の違いははっきりしていて、嫌でもその違いを認識させられてしまうだけ。
一緒にいればいるほど、身に染みる。
茜との違いを。
茜と俺との、根本的な考え方の相違を。
広がった距離は縮まることなく、更に距離を広げていくだけだった。
おかしいな。
あんなに可愛いと、そう思っていたのに。
あんなに好きだと、そう思っていたはずなのに。
好きっていう気持ちは、なくなるものなのか。
それとも、あの気持ちは間違いだったのか。
熱に浮かされて、恋だと勘違いしていただけだったのだろうか。
この恋は、何だったのか。
そもそも、俺はどうして茜を選んだのか。
今ではそんな簡単なことさえ、分からなくなっている。
季節は冬。
冬も終わりに近付いた、2月中旬。
俺は部活帰りの矢田と、一緒に帰宅していた。
「うわ、めっちゃ寒い!!」
派手な黄緑色のマフラーを首に巻く矢田が、耳元で大きく叫ぶ。
あー、うるさい。
ほんと、うるさい男だ。
寒いと言ってるクセに、やたらと元気じゃないか。
俺よりも確実に、矢田には元気が有り余ってるじゃないか。
それはきっと、矢田が野球部であるせいだろう。
弓道部の俺よりも、野球部の矢田の方が体力があることは否定出来ない。
「うっさい、矢田。」
「だって、さみーんだもん!」
「しかし、すごい色のマフラーだな………お前のマフラー。」
俺がそう言えば、矢田の表情筋がだらしなく緩む。
あー、はいはい。
分かってる、分かってる。
お前がそんな顔をするのは、ある1人の女の子に関することだけだ。