さよならの魔法



「へへ、いいだろー?」

「いや、別に。」

「これからは、この色が流行るんだって!ガチャピンみたいで可愛くない?」


ガチャピンって。

可愛いって。


この男にそう告げたのは、間違いなく林田だろう。



子供番組のキャラクターを口にして、矢田が嬉しそうに弾んで言う。


鮮やかな黄緑色は、確かにそのキャラクターそのもの。

意外と矢田に似合ってるのが、これまた癪に触るが。




俺と茜がギクシャクし始めた頃、矢田と林田は付き合い始めた。


矢田から好きな人を奪ってしまった手前、俺はそのことを何よりも喜んでいたのを今でも覚えている。

矢田には幸せになって欲しい。


俺が、矢田を傷付けてしまったから。

矢田から、茜という存在を奪ってしまったから。



友達だから、というだけじゃない。


俺には負い目がある。

だからこそ、余計にそう思った。



距離を開けていく俺と茜をよそに、矢田と林田は恋愛真っ最中。


夏を通り過ぎ、秋が足早に去り、冬になった今それは継続中だ。

今日もまた、俺は矢田の隣でのろけ話を聞かされてる。


笑った矢田の顔は、俺の心を和ませてくれていた。



「優美ちゃんがさ、俺が寒い寒いって騒いでたら………なーんと、手袋貸してくれたんだよ!」


ここぞとばかりに、矢田は小さな手袋をはめた手を見せびらかしてくる。


矢田の無骨な手に似合わない、小さな手袋。

収まりきっていない矢田の手が、手袋からはみ出している。


そこまでしなくても、ちゃんと見えてるっつーの。

気付けよ、矢田。



「………分かった、分かった。いちいち、自慢してくんな。」

「リア充な矢田くんが羨ましいんだろー?」

「そういうことにしといていいから。今頃、あっちが寒い寒いって泣いてんじゃないの?」


俺がそう言えば、矢田はようやくそこでハッとした表情。

貸してもらえたことに浮かれていて、そこまで気が回らなかったらしい。



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