さよならの魔法



言いたかった言葉を、ゴクンと唾と一緒に飲み込む。



こんなことを言ったって、きっと目の前の彼にとってはどうでもいいこと。


私がおはようと言えなかったことは、変わらない。

無視した様に見えたのも、変えられない。



「………。」

「………。」


結局、それ以上言葉を交わすこともないまま、男子生徒は廊下の奥へと消えていった。





残るのは、消えることのない罪悪感。

後味の悪さ。


ズキンと、胸が痛む。

心臓が音を立てて、軋んでいく。



悪いのは、私だ。

あの人じゃない。


おはようと言えれば良かった。

驚かせてごめんなさいと、そう言ってあげれば良かっただけだ。


それを言えなかったのは、私。

全て、意気地のない私が悪いのだ。



それなのに、胸が痛む。

悲しい気持ちになる。


心の中が、暗い色で塗り潰されていくのが分かる。


さっきまで感じていた晴れやかな気持ちなんて、もうどこかへ行ってしまった。



どうして。

どうして。


どうして、私は他の人みたいに挨拶出来ないの?

みんなみたいに、気軽に話しかけられないの?



無視したかった訳じゃないのに。

あの男の子の気分を、悪くさせたかった訳じゃないのに。


それでも、立ち止まってしまう。

口を閉ざしてしまう。


そんな自分が、嫌で嫌で堪らない。



(結局、私は………変わらないんだ。)


私のことをいじめていた女の子。

あの子と別のクラスになったとしても、何も変わらない。

変えられない。


こんな風だから、私はいじめられてしまうんだ。

いつまでたっても、いじめられたままなんだ。



負のスパイラルに迷い込む。


渦を巻くスパイラルは、終わりがない。

終わりなんて、目に見えないほど遠い先のこと。


ゴールのない迷路と同じだ。



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