さよならの魔法
今日のことを考えるだけで、涙が溢れ出すのを止められなかった。
泣いて、泣いて、それでもやっぱり結論は同じ。
終わらせよう。
今日で終わりにしよう。
その決意だけは鈍らなかった。
眠れない夜が明ける。
この恋の最後の日が訪れる。
ボロボロの姿を隠す為に、顔を洗って化粧水で肌を引き締めた。
(ついに、今日………なんだ。)
そう思うと、なかなか眠れなかったのは言うまでもない。
記憶の中の紺野くんは、いつだって笑ってる。
私が大好きな、その笑顔で。
初めて会った時は、初対面の私に挨拶をしてくれた。
他のみんなに無視されても、紺野くんだけは私の存在を認めてくれていた。
いつからだろう。
紺野くんの隣に、1人の女の子が常に寄り添う様になったのは。
私が行きたくても行けない場所に、増渕さんはいた。
クラスメイト。
私と同じだったはずの立場を、友達へと変えて。
友達から、彼女へとまた変えて。
つらかった。
苦しかった。
切なかった。
言葉でなんか言い表せないほど、生まれ続ける痛みを隠して過ごしてきた。
見たくなかったよ。
視界に入れるのも、苦痛でしかなかった。
増渕さんの隣で楽しそうに笑うところなんか、見たくなかった。
それでも、学校は休まなかった。
通い続けた。
その理由なんて、簡単だ。
私、紺野くんに会いたかったんだ。
隣にいられなくても。
紺野くんの隣に、別の女の子がいたとしても。
それでも、私、紺野くんの顔が見たかった。
捨てられなくて、悩んで。
切なくなって、諦めたくなって。
葛藤を繰り返しながら、今日まで戦ってきたけれど、それも今日でおしまいだ。
紺色のセーラー服に着替えて、真っ白なスカーフを結ぶ。
地味なグレーのマフラーを、グルグルと首に巻き付けて。