さよならの魔法
衝撃で動けなくなった私を、鼻で笑ったのは磯崎さんだ。
こうなることを望んで、彼女はわざと紺野くんを呼び止めた。
私を傷付けたいが為に、彼女は行動を起こしたのだ。
どこまでも、彼女は私を追いかける。
執拗なまでに、彼女は私を苦しめようとする。
決定的な言葉を放ったのも、彼女で。
固まって動けない私を指差して、磯崎さんはこう言った。
「天宮さんはー、紺野くんのことが好きなんだって!」
天宮さんは、紺野くんのことが好き。
天宮さんは、紺野くんのことが好き。
その瞬間だけ、時間が止まった。
確かに、教室に流れていたはずの時間が止まった。
どうして。
どうしてよ。
どうして、あなたがその言葉を言うの?
その言葉を、紺野くんに伝えるの?
私が、2年近く温めてきた想いを。
この恋を。
あなたが、私の何を知っているの?
私の気持ちをどれだけ知っていて、どれほど理解していて、その言葉を口にしているの?
何の権利があって、私の気持ちを踏みにじるのだろう。
親しくもない。
心を通わせたこともない。
そんなあなたに、私の心を踏みにじる権利なんてない。
誰にも侵せない聖域。
誰にも壊せない心。
大切な気持ち。
大切な心。
踏みにじる権利なんてない。
少なくとも、あなたには。
「………っ。」
ああ、紺野くんが見てる。
私のことを見てる。
困ったな。
どうしようって顔をして、私を見ている。
いつも思っていたよ。
こっちを見て欲しい。
一瞬でもいいから、私のことを見てくれないかなって。
私のことだけを見つめてくれたらいいのに。
見つめてくれるだけで、幸せになれるのに。
密かに願っていた。
そんな願いが叶ったら、どんなに素敵だろうと。
こんな形で、叶って欲しくなかった。
こんな風に、私のことを見つめて欲しくなかった。
好奇の視線に晒される中で、紺野くんと見つめ合いたかったんじゃない。