さよならの魔法
増渕さんとは、真逆の子。
地味で目立たない。
可愛くもないし、話も上手くない。
会話をしようとすれば、緊張して噛んでしまう様な子。
そんな女の子から好かれたって、紺野くんだって困るに決まってる。
「………っ、もう………いや………っ。」
紺野くんの顔がぼやけていく。
滲んでいく。
見えなくなっていく。
どんな表情をしているのかなんて、もう分からない。
それがかえって、好都合だった。
好きな人を困らせたくない。
好きな人の困った顔なんて、見たくない。
理由は、私なのだ。
紺野くんを困らせているのは、私なのだから。
「うっ、………!」
酷い嗚咽を漏らしながら、私は走った。
ひたすら走った。
逃げ出したのだ。
紺野くんから。
みんなの前から。
磯崎さんから、私は逃げたんだ。
全てが、嫌になってしまった。
全てが、どうでもよくなってしまった。
荷物を、教室に置き忘れてしまったこと。
せっかく作ったチョコレートも、磯崎さんに取り上げられたままであること。
それさえも、もうどうでもいいと思った。
磯崎さんの声が回る。
頭の中で駆け巡る。
彼女の声が消えてくれない。
「天宮さんがねー、紺野くんにチョコレート、渡すみたいだよ!!」
「天宮さんはー、紺野くんのことが好きなんだって!」
「あー、1年生の頃から好きだったんだって。純愛だねー!」
ガラスが割れる時の音がする。
パリンと、体内から聞こえるその音は、心が壊れていく音。
私の心が崩れていく音。
初めての告白は、未遂に終わった。
意外な形で。
意外な人の手によって。
1番望まない形で、バレンタインは終わりを迎えた。
それから、どうしたのか。
どうやって家に帰ったのか、私はよく覚えていない。
ただ、私はこの日以来、自分の教室に行くことはなくなった。