さよならの魔法
サァーーー………
山を通り抜けた風が、心地良く吹く。
この辺りの風は、山から吹き下ろすからほどよく涼しい。
特に、夏の前のこの時期の風は。
俺が好きな風。
故郷に吹く、涼やかな風。
梅雨入り直前の今日、体力テストという名の恒例行事が校庭で行われている。
体を動かすことが好きな俺にとっては、授業をサボっている様なものだけれど。
勉強をしているより、こっちの方がずっと合っているのは自分でも分かっている。
涼やかな風が吹く中、体を動かすのは気持ちがいい。
鬱憤まで晴れていくから。
順番を待つ列の後方で、俺は友達との会話に花を咲かせていた。
「なー、紺野ー。」
そう話しかけてくるのは、同じクラスになった矢田。
矢田 大地【ヤダ ダイチ】。
中学に入ってから知り合ったこの男は、底抜けに明るくて、よくしゃべるヤツ。
コイツといると、暇をしない。
だって、暇さえあれば、ずっとしゃべってるから。
中身は、くだらないことがほどんどだけれど。
入学式の日。
同じ小学校出身のヤツと話していた時、たまたま通りかかったコイツが嬉しそうに会話に混ざってきたのをよく覚えてる。
まるで、ずっと前から知っているみたいに。
ごくごく、当たり前のことの様に。
ウマが合うのだろうか。
それとも、何か通じ合うものがあるのだろうか。
理由はいまいち分からないけれど、気が付いたらいつもコイツの隣でしゃべっている気がする。
今日も、もちろん隣には矢田。
怠そうに座る矢田と、その横に立つ俺。
胡座をかいて座る矢田が、俺を見上げてこう問いかけた。
「紺野はさ、誰か可愛い女子とか見つけた?」
「は?」
矢田の問いかけに、目が点になる。
(何、言ってんの?)
俺、そんなことの為に学校に来てる訳じゃないんだけど。
勉強がしたいから来ている、とも言えないのが悲しいが。