さよならの魔法
そこに広がるのは、開かれた空間。
冬の日暮れは早い。
開かれた空間は、既に夕暮れ色に染まっていた。
視界いっぱいに広がる、オレンジ色。
深く沈んだ、暗いオレンジ。
ここは、俺と茜の始まりの場所。
茜が、俺にその想いを伝えてくれた場所。
俺と茜の思い出の場所だ。
決めていた。
この場所で言おうと、最初から俺は決めていたんだ。
始まりの場所。
全てが始まったここで、終わりを迎えようと。
暮れる景色。
寂れた色に染まっていく、俺と茜。
誰もいないこの場所に、俺と茜の2人だけ。
2人が、同じ色に染まっていく。
茜は、怒った顔のままだった。
あんな場面を見せられたのだ。
無理もない。
付き合っている人に、目の前でチョコレートを渡されて。
しかも、自分の大切なその人は、自分の前でそれを受け取って。
自分ではない女の子のことをかばった。
自分ではない女の子からのチョコレートを手にして、その子のことを守ろうとした。
茜の立場からしたら、面白くないと感じるのは当然のこと。
ごめんな。
ごめん、茜。
俺は、これからもっと嫌な思いをさせてしまうだろう。
きっと、茜を泣かせてしまうだろう。
茜を悲しませてしまうから。
傷付けることになるから。
茜のこの表情も、すぐに消えることになる。
怒りを隠そうともしない茜が、無表情でこう言った。
「ユウキ。」
「何?」
「天宮さんからのチョコ、どうするつもり?」
無表情の中に見え隠れする、思い詰めた顔。
分かっていた。
このチョコレートをどうするのか。
聞かれると思っていた。
茜は、こういう事態を避けたかった。
俺が、別の女の子からチョコレートを受け取ることを許せなかった。
だから、ずっと見張っていた。
俺の傍から離れようとしなかった。
無駄話をしてでも、それを阻止したかったのだ。