さよならの魔法
しかし、茜の思惑を超えた事態が起きてしまった。
茜が決して逆らえない人物の手によって、思いもしない出来事が引き起こされてしまった。
起こってからでは、どうしようもない。
受け取ってしまってからでは、阻止のしようがない。
だから、聞くのだ。
茜は。
このチョコレートをどうするのかと。
「どうするって、………別に、どうもしないよ。」
素っ気なく、そう答えた。
どうするも何も、どうにも出来ないというのが本当のところ。
返したくても、返せない。
天宮は消えてしまった。
深く傷付いた彼女は、俺の前からいなくなってしまった。
相手がいないのでは、返そうにも返せない。
それに、俺はまだまともにカードの内容すら見れていない。
ラッピングを解いて、中身を確認していない。
磯崎の言葉通りなら、俺に宛てた物であるのは確かなのだろうけれど。
浮かれた気持ちで、誰かを傷付けたくない。
茜の時みたいに、簡単に決めたくない。
慎重になっているのだ。
カードをちゃんと読みたい。
箱の中身くらい、ちゃんとこの目で確認したい。
そうしてから、どうするかを考えたいんだ。
今の時点で言えるのは、天宮の存在は俺にとっては大きくはないということだけ。
天宮のことが好きかと問われれば、俺はすぐに違うと首を横に振ることだろう。
嫌いじゃない。
クラスメイトとしては、好きなのだと思う。
でも、その好きという気持ちに、残念ながら恋愛としての意味は含まれていない。
天宮のことを、異性として見てはいない。
人間としては好感を抱いていても、そういう目で見たことはない。
だから、よく考えたい。
どう言うべきなのかを。
どう返事をすべきなのかを。
これから意識してしまうのは、間違いないだろう。
そういう目で見たことはなくても、あんなことがあった後なのだ。
他人の口から、ずっと隠していたであろう気持ちを告げられたんだ。