さよならの魔法



初めての遠出。

初めてのキス。


全てが照れ臭くて。

思い通りにいかないことの方が圧倒的に多かったけれど、それもまた俺には大切なことだったと言える。



こんな風になりたくて、付き合うことを選んだ訳じゃなかった。


好きになりたかった。

幸せにしてあげたかった。


でも、溝を埋めることは叶わなかった。

茜の手を取ることさえ、出来なくなった。



瞼を重く閉じたまま、俺は別れの言葉を口にした。





「茜、俺達………もう終わりにしよう。」


ごめん。

最後まで、俺は自分勝手だ。


ごめんな。

こんな結果しか、俺は選べなかった。


最後まで、茜と同じ気持ちにまで到達出来なかった。

最後の最後まで、茜と同じ気持ちで茜を愛することが出来なかった。



俺がそう言った瞬間、茜の目からより大粒の涙が零れ落ちた。


雫が煌めいて、沈んでいく。

夕焼け色に一瞬だけ染まって、すぐにコンクリートの灰色と同化していく。



歪む顔。

濡れる頬。


感情を剥き出しにした茜が、俺に問う。



「どう、して………、ねえ、どうして!?」

「………それは」

「わ、私が、天宮さんからのチョコを返せって、そう言ったから?」

「そうじゃない。」



そうじゃない。

それだけじゃない。


確かに、それも引っかかった。

きっかけにはなったのかもしれない。



だけど、それだけじゃないんだ。


茜との別れを決めたのは、もっと前からだ。

今日のことがなくても、同じことを俺は言っていた。



別れようと。

もう終わりにしようと。


遅かれ早かれ、茜に告げていただろう。



すれ違っていたのだ。

今回の件がなくても、俺と茜はすれ違っていた。


俺は茜を避けていたし、茜はそれを分かっていた。

茜との時間も作ろうとはしなかった。


噛み合わない歯車みたいだった。

俺と茜は、上手く噛み合っていなかった。



< 185 / 499 >

この作品をシェア

pagetop