さよならの魔法
紺野くんの困った顔。
増渕さんから向けられる、鋭い視線。
磯崎さんの歪んだ笑顔。
思い出す。
とてもじゃないけど忘れられなくて、ずっと同じ場面ばかりを思い出してしまうのだ。
知られてしまった。
紺野くんだけじゃない。
他のクラスメイトにまで、気持ちを知られてしまった。
紺野くんが好きなのだと。
1年生の頃から、ずっと見ていたことを知られてしまった。
もう戻れない。
何も知られていない時には、戻れやしない。
これから、どうすればいい?
紺野くんの前で、どんな顔をすればいい?
平然となんて、していられない。
普通の顔なんて、出来ない。
何もなかった顔をして、あの教室に行くなんて…………私には無理だ。
そんな度胸、私にはないんだよ。
そんな度胸があるなら、もっと早くに告白していた。
みんなの前で、紺野くんを呼び出すこともしていただろう。
自分に出来ることと、出来ないこと。
出来ることは、自分の殻に閉じ籠もること。
出来ないのは、あの教室に足を運ぶこと。
泣いて。
泣いて。
涙が枯れるほど、泣いて。
憔悴しきった頭に浮かんだのは、やっぱりそれでも紺野くんの顔で。
ああ、好きだ。
紺野くんのことが好きだ。
まだ好きなんだ。
それでもやっぱり、私は紺野くんのことが好きなんだ。
あんなことがあったのに、私は未だに紺野くんという存在を消せない。
頭の中からも、心からも。
仮病を使って休んで、学校には行かなくなった。
最初こそガミガミとうるさくお母さんもいろいろ言ってけれど、そのうちに何も言われなくなった。
諦めたのだろう。
言っても無駄だと分かると、その先は文句も言わずに放置された。
担任の佐藤先生も何度も家まで訪ねてきたけれど、私は頑ななまでに心を開こうとはしなかった。
説得にも、応じようとさえしなかった。
そして、春。
季節は巡って、紺野くんと出会った季節が戻ってきて。
私は教室に行くことのないまま、3年へと進級した。