さよならの魔法
思ったことが、どうやらそのまま顔にまで出てきてしまっていたらしい。
矢田はゲラゲラと楽しそうに笑いながら、言葉を重ねた。
「あははっ、紺野って………もしかして、そういうの興味ないの?」
「興味?」
そういうの。
矢田がそう言うのは、きっと女の子のこと。
ないと言えば、嘘になる。
しかし、あると言っても、それは本心ではない気がする。
この時の俺は、まだ12歳。
女の子に興味がない訳ではないけれど、そういうことにはまだまだ疎い年頃。
田舎育ちの男子なんて、みんなそんなものだろう。
そう思っていたのは、俺だけだったらしい。
「まさか、男が好きだとか言わないよなー?」
矢田は嫌味な笑顔でニタニタ笑いながら、そう聞く。
答え?
そんなの、決まってる。
「そんな訳ねーだろ!」
分かんないヤツには、これが1番。
ここぞとばかりに、ゲンコツを矢田の頭にお見舞してやった。
世界は広い。
俺が生まれ育ったこの町は狭いけれど、世界は広いからいろんな人がいる。
同性を好きになる人だって、いるだろう。
そういうことに偏見は、特に持っていない。
人の恋愛観なんて、その人だけのもの。
人それぞれ。
他人がとやかく言ったって、どうにもならないし。
自分の恋愛観に、他人が口を出すのもどうかと思うし。
俺に言えるのは、自分が至って普通の人間であること。
男よりも、女の方が好き。
恋愛感情を抱くのは、きっと女の子の方だ。
色恋沙汰には興味が湧かないけど、ノーマルなはず。
矢田は、俺とは違うタイプの人間らしい。
周りのヤツよりも、そういうことに少し早く目覚めてしまったのだろう。
校庭を見回す矢田の目は、何かを見定めている目。
獲物を狙う、野性的な男の目だ。