さよならの魔法
しかし、友達と彼女は、別物だ。
浅く付き合うつもりなら、そう深く考える必要もないのだろうけれど。
深い付き合いをするなら、お互いのことを理解しなければならない。
お互いの心を。
全てを理解しなければならない。
俺には、それが出来なかった。
茜の全てを受け入れることが出来なかったんだ。
記憶の端に残る、涙。
あの子の流した涙は輝いていた。
キラキラと輝く、純粋なものだった。
あの子は今、どうしている?
天宮は、今、何を思っているのだろう。
あれから天宮と会うことはなく、彼女と話す機会は1度もなかった。
学校に来なくなった、あの子。
教室から消えた存在。
みんなはそれが当たり前だと言わんばかりに、普段通りに振る舞っている。
忘れてしまったのか?
あんなことがあったのに、あの子のことを忘れてしまっていいのか?
そこに、机はあるのに。
名簿にだって、名前はあるのに。
2年1組 出席番号19番、天宮 春奈。
あの子の名前は、ちゃんとあるのに。
名前だけしか、存在していないなんて。
教室の端で静かに本を読んでいたあの子は、もういない。
美術の授業で先生を驚かすほどの絵を描くあの子は、ここにはいない。
この教室にはいないのだ。
寒さが消え、穏やかな空気が小さな町を包み込む。
冬の冷たさが薄れ、温かな陽気で満たされていく。
巡る季節は若干の寂しさを残し、新たな季節を呼び込む。
茜と別れて。
1人になって。
天宮も、学校から姿を消して。
巡る季節。
訪れた春。
俺は、中学3年生になった。