さよならの魔法
冷たくて。
冷たくて。
体の芯まで冷えていく温度。
口に入れたら、きっともっと冷えていくのだろう。
メニューは虚しいものだった。
スーパーで売られている惣菜を、真っ白な皿に並べただけ。
見た目だけは美味しそうなのに、そこに心はない。
作った人の心はあるのかもしれないけれど、母親の心なんて微塵も感じられないもの。
ハンバーグ。
ポテトサラダ。
美味しいはずなのに、心には染みてこない味。
それを、素知らぬ顔で出してくる母親。
自分が、1から作りました。
全て、自分が手間暇かけて作りました。
そう言わんばかりに、皿に盛って出すのだ。
私にバレているとも、知らずに。
(また、か………。)
いつからだろう。
お母さんが、まともに料理をしなくなったのは。
いつだっただろう。
お母さんの手料理を、口に入れたのは。
忘れてしまった。
もう、忘れてしまった。
お母さんの味。
お母さんの優しさ。
そんなもの、とっくに忘れてしまったよ。
親子って、何なんだろう。
血の繋がりって、一体、何なんだろう。
考えれば考えるほど、分からなくなる。
親子とは、何なのか。
血の繋がりとは、どういうものなのか。
血なんか繋がっていても、意味はないんじゃないか。
そう思う様になった私は、薄情な娘なのだろう。
「こんな時間まで、家にいて。家にいても、寝てばっかりで。」
「………。」
「一体、いつになったら学校に行くの?」
好きで、家に籠っている訳じゃない。
私だって、ここにいるのは好きでしていることではない。
学校に行くよりはまだマシだから、いるだけのこと。
行く場所なんて、ない。
居場所なんて、どこにもない。
私には。
うんざりだ。
普段は放置しているクセに、こういう時だけ親の顔。
説教をしたい時だけ、ちゃんとした親のフリ。