さよならの魔法
(もう、やだ………。)
全てのことが煩わしい。
学校も。
家も。
親も。
叶わない恋も。
厳しいばかりの母親も。
全てが嫌になる。
嫌になって、投げ出してしまいたくなる。
小さな部屋。
自分専用に与えられた部屋。
ここだけが、私の場所。
私が誰にも聞かれずに、溜め息をつける場所だ。
私はもう、投げ出してしまっているのかもしれない。
どうにもならない現実を。
虚しいことしか待っていてくれない、そんな現実を。
目を閉じれば、しつこいくらいにあの日の光景が浮かんでくる。
初めて作った、チョコレート。
最後まで渡せずにいた、チョコレート。
伝えられなかった気持ち。
勝手に言われてしまった、私の2年間の想い。
残ったのは、壊れてしまった心だけだった。
ズキンと痛む胸に、眉をしかめる。
つらい。
つらいよ。
胸が痛い。
もう、あれから3ヶ月も経ったのに。
あの場にいた人は、忘れてしまっているかもしれないのに。
いつまで経っても、忘れられない。
私だけが、あの日に囚われて止まっている。
昨日のことみたいに思い出せるよ。
紺野くん。
紺野くん………。
あんな風に知られてしまうくらいなら、何もないままで終わってくれた方が良かった。
あんな風に知られてしまうくらいなら、いっそのことーーー………
もう、この世に存在していたくない。
この世界から消えて、いなくなってしまいたい。
全てを忘れて。
消えて。
いなくなりたい。
いなくなってしまいたい。
「う………っ、ふ………うぇ………っ。」
嗚咽を吸い込ませる様に、枕に顔を押し付けた。
ペタンコの枕が、音を遮断していく。
漏れ出る嗚咽が、激しく鼓膜を揺らせている。
止まらない。
涙が止まってくれない。
溢れる涙は氾濫してしまった川の様に、抑えが効かずに流れ続ける。