さよならの魔法
この3ヶ月間、何度も泣いた。
数え切れないほど。
体内の水分がなくなってしまうんじゃないかというほど、何度も何度も泣いたんだ。
それなのに、涙は止まらない。
止まってくれない。
まだ溢れ出す水分が、私の中に存在していたのだろうか。
ダメだって、分かってる。
無駄なことなんだって、分かってる。
それでも、紺野くんに気持ちが向かっていく。
自然に、紺野くんに心が向いていく。
半端な気持ちで、紺野くんのことを好きだった訳じゃないから。
簡単に忘れられるほど、適当に考えていた訳じゃないから。
本気で好きだった。
初めて、こんなに誰かのことを愛おしく想った。
好きで。
好きで。
大好きで。
だから、忘れられなくて。
もう、どうしようもない。
「うっ、………ううっ………。」
密かに涙を流していた、その時だった。
トントン。
軽いノックの音。
嗚咽の向こうに聞こえたのは、固い音。
遠慮がちに、ノックをした人物はドアの向こう側でこう言った。
「ハル、入ってもいいか?」
そう言ったのは、お父さんだった。
気配を感じた時に、きっとそうだろうとは思っていた。
ノックの音を聞いた時点で、私はドアの向こう側にいるのがお父さんだと気付いていた。
お母さんなら、ノックなんてしない。
鍵をかけていても、無理矢理にドアを開けようとしてくる。
わざわざ入っていいか、なんて聞いてくれない。
1人でガヤガヤと騒ぎ立てて、押し入ろうとするもの。
気を遣って、ドアをノックしてくれる人物。
それは、家族ではお父さん、ただ1人だ。
(どうして、こんな時間に………お父さんがここにいるの?)
私がそう思うのも、無理はないだろう。
今の時刻は、午前10時過ぎ。
学校も始まっている時間。
だからこそ、私はあんな嫌みをお母さんに言われていたのだから。