さよならの魔法
「い、や………、やめて………。」
必死に訴えても、届かない言葉。
お願い。
お願いだから。
私の心を壊さないで。
踏みにじらないで。
「返して!」
宙を切る手。
歪む顔。
笑っているのは、魔性を覗かせる同い年の女の子。
「天宮さんがねー、紺野くんにチョコレート、渡すみたいだよ!!」
本人の意思を無視して、先に伝えられてしまった気持ち。
取り上げられたままのチョコレート。
紺野くんの困った顔。
増渕さんの衝撃を受けた様な、驚きを隠せない顔。
磯崎さんの楽しそうな顔。
3人の顔が回る。
頭の中を、メリーゴーランドみたいに回り続ける。
(学校に行く、の………?)
あんな場所に、行く?
私は。
私は、まだ頑張らなければならないの?
勝手に告白されて。
チョコレートまで、取り上げられて。
あの場で踏みにじられたのは、心だけじゃない。
大切にしてきた恋まで踏みにじられたあの場所に、また行けと言うの?
困らせたくない。
戸惑わせたくない。
紺野くんになんて、会えるはずがないじゃない。
どんな顔をしろって言うの?
平然として、今まで通りに教室に顔を出せと言うの?
そんなの。
そんなの、無理だ。
「いやっ、だよ………。いやだよ………!」
「ハル………。」
「いやあぁぁぁぁ………っ!!!!!もうあんな場所、行きたく………ない………っ。」
それは、私の心の叫び。
心の声だった。
この3ヶ月間、思い続けてきたこと。
この3ヶ月間、願い続けてきたこと。
会いたい。
会いたい。
だけど、会えない。
もう会うことはない。
好きなのに。
今でも、大好きなのに。
私が紺野くんに会うことは、もうない。
きっと、ないだろう。
止まっていた涙が堪えきれず、体の内側から滲み出す。
悲しみの渦が、涙が、全てを巻き込んでいく。