さよならの魔法



「やっぱり、学校で………何かあったんだな。」

「………。」


お父さんは、ポツンとそう呟いて。

幼い頃にそうしてくれた様に、泣き続ける私の頭を優しく撫でてくれた。




「お父さん………。」


お父さんの大きな手が、私の頭をそっと撫でる。


小さい頃。

小学生の頃。


何か新しく出来たことがあれば、お父さんはこうやって私の頭を撫でてくれた。

優しい顔で笑って、私を褒めてくれた。



嬉しかった。

この手が大好きだった。


何かがあると、お母さんよりもお父さんに先に話をしていた気がする。



「ハル、あのな………、お前に何かがあったのは、薄々気付いてたんだ。」


親に言ったって、どうにもならない。


何もしてくれない。

何の解決にもならない。


私は誰のことも信用出来なくて、 だからこそ悩んでいた。



だけど、お父さんは違った。

お父さんだけは、何も言わなくても気が付いてくれていた。


私の異変を感じてくれていた。

そして、心配してくれていた。


私は叱られたくないからと、避けていたのに。

心配してくれていたお父さんの存在を分からずに、逃げていたのに。


お父さんは。

お父さんは。




「大丈夫だ。」

「お父さん………。」

「大丈夫、大丈夫だから………。」


よしよしと、昔みたいに宥めてくれるお父さん。



何が大丈夫なのか。

どうして、そんなことが言えるのか。


その理由は分からない。

分からないけれど、私はその言葉だけで安心することが出来た。



お父さんは忙しいけれど、私のことを見ていてくれた。

ちゃんと、私のことを考えてくれていた。


私は1人じゃない。

私は1人じゃないんだって、そう思えるから。



ずっと孤独だと思っていた。

ずっと1人だと、そう思っていた。


でもね、それは間違いだった。

私は見えていないだけだった。



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