さよならの魔法
『受験生』
長い冬が終わって、春が来る。
新たな季節の始まり。
新しい1年の始まり。
俺は、中学3年になっていた。
変わったことと、変わらないこと。
変わったのは、中学校での最高学年になったことだ。
上には誰もいないし、学校の中は同級生か後輩しかいない。
「紺野先輩!」
そう言って頼られるのは、正直に言えば嫌じゃない。
ちょっとだけ、くすぐったい気分だ。
ついこの間、中学に入学したばかりだと思っていたのに。
今では、立派に受験生の仲間入りだ。
変わらないのは、周りの環境。
当たり前と言えば、当たり前の話だけど。
進級したからと言って、何かが変わる訳じゃない。
住んでる家も同じ。
通っている学校だって、同じだ。
クラスだって、同じ。
うちの学校は、2回しかクラス替えをしない。
入学した時にする、クラス編成。
それと、2年に進級する時にするクラス替え。
たった2回だけ。
当然、今年のクラスは、去年のクラスと同じになる。
2年1組の看板が、3年1組という看板に変わっただけだ。
おまけに、担任の先生まで同じと来たもんだ。
受験生になって、1ヶ月。
何ってことはない日常が、今日も流れていく。
あの子のいない日常が。
「紺野くーん、おはよ!」
「おー、紺野。後で、教科書借りに行っていいー?」
始業時間前のひととき。
朝の忙しい時間でも、今だけはゆっくりと時間が流れている気がする。
勉強、勉強。
そう急かされてばかりの今は、何だかんだで忙しいから。
校舎の3階。
ここは、3年1組の教室。
俺達の教室だ。
教室のあちらこちらからかけられる言葉に、俺は笑顔で応える。
「おはよー。」
「教科書貸すのは構わないけど、後でジュース奢れよ!」
1人1人に言葉を返し、教室の真ん中にある自分の席に座る。