さよならの魔法



あの子は、クラスメイトだ。


ずっと同じクラスで。

同じグループになったこともない、薄い関係。


それだけだ。



茜と別れた今は、そんな気持ちになれないという理由もある。

またあんな風に、他の人を傷付けたいとは思えないから。


受験生になってしまった今は、そんな余裕などなくなってしまったというのもあるけれど。



だけど、気になる。

それでも、気になってしまう。


それが、俺にとっての天宮。

理由は分からないけど、気になる存在であることは確かなのだ。



「天宮さんはー、紺野くんのことが好きなんだって!」


磯崎のあの言葉のせい。

あんな言葉を聞いてしまったから、意識しているだけだ。


男なんて、単純な生き物だ。

それを、身をもって体験している訳だが。



単純だから、失敗して。

何度も何度も、後悔して。


そこから、進んでいければいい。

ちょっとずつでも、成長していければいい。





そして、消えてしまった人間のもう1人は、アイツ。


このクラスに混乱をもたらしていた原因。

天宮を傷付けていた、張本人。


磯崎 紗由里だ。



教室を騒がせるだけ騒がせておいて、アイツはとっととこの町から出て行ってしまった。

アイツは、もうこの町にはいない。


親の転勤に付いて、他県に行く。

そう、佐藤先生に言われたのを覚えている。



ほんと、人騒がせな女だ。


この小さな田舎町になんて、アイツは収まりたくなかったのだろう。

退屈でしかなかったこの町を、早く捨てたかったのだろう。


最後の日。

清々しいほどの笑顔で挨拶までしていた。




「磯崎さん、挨拶して。今日が最後なんだから。」


佐藤先生に促されて、教壇に立つ磯崎。

目立ちたがり屋の女。



「長い間、お世話になりました。みんなと会えなくなると思うと、すごく寂しいです!」


何が、寂しいだ。

嬉しそうな顔をしてそんなことを言われても、誰も信じる訳ないだろうが。



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