さよならの魔法
(元カノ、だけど………友達。)
そういうのって、アリなのだろうか。
割り切れない俺は、子供なのだろうか。
とにかく、茜の中では、俺は友達ということらしい。
あくまでも、たくさんいる友達のうちの1人らしい。
俺が、そうは思っていなくても。
「俺、行くとこあるから。」
俺はそう言って、それでもくっ付こうとする茜を引き剥がす。
「ユウキ、1時間目の授業、始まっちゃうよ!?」
不満そうな茜を置いて、教室を出た。
このままだと、私も一緒に行くと言い出しかねない。
1人になりたかった。
考えを纏める時間が欲しかった。
行く宛てなんてない。
目的地なんて、俺の頭の中にはなかった。
時間も限られてる。
教室を抜け出せれば、どこだって良かった。
大好きだった学校。
大好きだったはずの教室。
大好きだった場所が、息苦しさを感じるだけの空間に変わりつつある。
自然と笑顔になれる場所だったはずなのに、悩みが増える場所に変わってしまったのは、いつからだっただろう。
足が向いたのは、中庭。
階段をすぐ傍にある渡り廊下から、上履きのまま、外に出る。
見上げた空は、俺の心とは正反対。
澄んだ空はどこまでも広がり、透明感を増していく。
まるで、水面。
濁りのない、水みたいだ。
「何やってんだろ、俺…………。」
ポツンと呟いた声が、中庭の空気に吸い込まれて消えていく。
誰もいない場所でしか、吐き出せない溜め息。
ぶつけられないストレス。
(思春期ってことかな、これって。)
この憂鬱さ。
この悩み。
そんなことを考えながら、目を閉じる。
聞こえるのは、誰かの話し声。
誰かの笑い声。
楽しそうな声。
戻らなきゃ。
俺の戻るべき場所へ。
あるべき場所へと。
無理に笑顔を作ろうとして、それが出来なくて。
残ったのは、苦々しいだけの歪んだ笑顔だけだった。