さよならの魔法
夜ご飯を食べて。
食べ終わった後は、部屋に戻って宿題をしていて。
その後の記憶が、すっぽり抜け落ちている。
その後、何をしていたのだろう。
そのまま、寝ちゃったんだ。
きっと、そうに違いない。
眠気の中で思い出すのは、数時間前のこと。
1人きりの夜ご飯。
味気ない、夕食の時間のことだ。
「はい、夜ご飯よ。さっさと食べなさい。」
そう言って、お母さんが乱雑にビニール袋を手渡してくる。
ビニール袋に印刷されているのは、近所のスーパーマーケットのロゴ。
その中には、スーパーで買ったらしいお弁当が入っていた。
最近は、惣菜を買ってくることもなくなった。
買ってきた惣菜を、皿に移し替えることが面倒になったのだろう。
買ってきたお弁当を、そのまま渡される様になったのだ。
間違っても、手作りの料理なんて出てくることはない。
冷たいお弁当。
母親の愛情なんて、微塵も感じられない物体。
押し付けるだけ押し付けて、母親という立場にあるこの人は笑顔で私にこう告げた。
「じゃあ、私は出かけるから。叔父さんの家に行くから、遅くなるわ。」
同じ町にある叔父の家に行くと言い残し、嬉しそうに出かけていく母親。
本当に、叔父の家に行くのだろうか。
それとも、別の場所に行っているのだろうか。
私の父親のいる所に行くのではないことだけは、確かなのだろうけれど。
どっちでもいい。
あの人がどこへ行こうと、もう私には関係ない。
母親であって、母親ではない人。
家族であって、他人みたいに遠い人。
それが、私にとってのあの人。
戸籍上は母親である、あの人なのだ。
「また、お弁当か………。」
お弁当を食べることに関しては、そこまで抵抗はない。
最近のスーパーのお弁当は、なかなかバカに出来ない。
栄養価だって考えられているし、下手に料理をするよりもずっと美味しく食べられる。
ただ、愛情を感じない。
それだけの話だ。